勝手にピンクリボン

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ブログの方でもすこし話題にしましたが、実は今年初めに私の人生の中でとても大きな事件がありました。
結果違ったのですが、一つの病院で乳がんという診断をされたのです。
それにまつわる色々な経験を通して命・家族・医療についていろんな事を感じ考えさせられました。
そのとき書きとめておいた事です。

明け方左胸に激痛!痛くて布団の中でうずくまりう〜う〜唸った。
朝起きてからも痛みの余韻がある。これは普通じゃない。ともかく医者に行こう。

自宅から一駅の総合病院へ。このE病院外科には初めてかかる。
雰囲気の良さそうなドクターに症状を伝える。激痛と云うことは「がん」であることはまず無いとのこと。心臓か肺か、それとも胸なのか。。。。
最近の乳がん検診ブームでマンモグラフィと乳腺エコーは予約でいっぱいなので、今日のところは触診、心電図と血液検査をする。あれから痛みも無いし、何かホルモンの影響かなぁ。でもそーとー痛かったしなぁ。なんでもないといいなぁ。

今日はまずマンモと乳腺エコーの検査。
テキパキとした説明と指示でマンモグラフィ(乳房レントゲン)を撮る。ほんの数秒間とは云え、縦にそして横にのプレスはやはり痛い(涙)。
フィルムをもらって次にエコー検査室へ。胸のエコーは初めて。暖房の効いた部屋だが、ゼリーがひんやり冷たい。何故か右側を念入りにエコエコしている。何だろう、何か写っているのかしら。
にしても身体が冷えて来た……身体の為の検査なのに、身体に優しくないことばかりだ。
二つの検査結果を持って外科外来に戻る。
痛みのあった左側は異常なし。しかし、穏やかなドクターの顔を曇らせたのは、右側の乳腺エコーの結果だった。
イヤなものが写っていると云う……


手術を視野に入れる為、担当のドクターが変わった。今度のドクターはハ虫類系。私の状況を淡々と説明してくれる。
問題の右胸のいびつな影は、悪性かどうかは細胞を採って調べないと解らないと云う。問題の部位に穿針(せんし)して調べても100パーセント良性とは判明出来ない。針に当たらなかった所にもしかしたら悪性細胞があるかもしれないと云うのだ。もう一つの手段は、疑わしき部位を丸ごと切除してスライスし全部調べる方法。
だんだん身体が固まっていくような変な緊張感に襲われた。命に関わることだもの、胸に4、5センチの傷がつくけどシコリを丸ごと切除し調べる方を選択した。
手術は6日後に決まった。
 
あとになって凄く悔やんだのは、この段階でセカンドオピニオンを受けるべきだったということ。
でもあの精神状態で思いつきもしなかった私。それに心のどこかで大丈夫だと過信していたのだ。きっと「良性でしたよ。」と云われるだろうと……


午前中に仕事をして、昼から絶食。水分は少量オーケー。
夕方4時過ぎに病院へ入る。
手術着に着替え、午後4時30分「右乳腺腫瘤(みぎにゅうせんしゅりゅう)切除術」開始。台に横になると、冷た〜い消毒を胸部全体にされ、あれよあれよと云う間に身体中ブルーのシートで覆われていき首から下が全く見えなくなった。そう、今回の手術は部分麻酔の為意識はずっとある。あって欲しくないのに、頭は冴えている。最悪だ。
ふとグレイズアナトミーでよくあるシーンを思い出した。あの生々しい手術の映像を…
「すみません、麻酔を多めでお願いします!」ビビったわたしは看護師さんにお願いした。
 チクッと麻酔をされる。だんだん触られていることも解らなくなってきた。暫くしてドクターが“何か”器具を持って“何か”した。
「これ痛いですか〜?」と聞く。
「いえ、大丈夫です…(汗)」お、お主!今何をした〜〜?ともかくイヤな想像ばかり働き始める私。でも仕方ない、ここはドクターに任せるしかないのだ。麻酔が効いていても引っ張られる感じはよく判る。ピーーと云う機械音と共に、電気メスを使っている。電気メスは出血が少ないそうだ。でも皮膚が焦げて香ばしい香りが漂ってくる。
またしても、最悪だ…!
「何か楽しいことでも考えて。」と、看護師さんは云うが無理無理!だったら何か話題を提供してほしい。
手術室には私とドクターの他に看護師さんが2人だけ。へんな空気が漂う。

徐々に痛みを感じ始めて来る。
「痛いです。」と云うと、ドクターは意外そうに、
「え?これ〜?これは?」と、痛いと言っているのにイヤなお試しをされる。麻酔を追加したらしい…
手術って何をするかいちいち口に出して進めるもんだと思っていたけど、ドクターってそんなに口頭指示しないんだね。
そして今度は徐々に熱さも感じはじめてきた。
「熱い感じがします〜!」と訴えるも、反応がない。無視?もう少しだから頑張ってとか励ます事もなし。器具を腹部あたりにガチャガチャ置かれたりする(汗)。ドクターはしきりに「圧迫して!圧迫して!」と言い出した。止血してるのだなあと思っていた矢先、突如激痛!
「痛っっっ!」思わず大きな声が出る。
「え?これ痛い?う〜ん……」と不満げな様子。おそらくもう後半なのだろう、麻酔を追加した気配なし。私は恐怖で体中に力が入るっ。歯を食いしばり、深呼吸して落ち着こうとした!早く終わってくれ〜っと祈った!

そろそろ糸で縫っているようだ、動きで判る。でもビリッと痛い!
「ヴッ!イッタ〜〜!」と涙を浮かべて言うも、ドクターは悪びれもせず
「あ〜、じゃあコレも痛いかも。」と言ったきり糸を皮膚に刺し、ツ〜〜っと縫い続けている。我慢して当然のことじゃないよね、コレは…拷問だぁ。

手術終了後、私の右胸には15センチ角のガーゼが張られていて、縫った傷は見えません。
「何針縫ったんですか?」と聞くと、それには答えずぶっきらぼうに
「溶ける糸なので抜糸はありません。」との返事。なんだか機嫌が悪いのかしら?なじぇ?

切除したものを見せてもらった。透明の袋に入れられたソレは、白っぽくで一部赤黒い。触るとフカフカしていた。そのフカフカ(脂肪)の中に、パチンコ玉のような固いものがあるのが判った。
こ、これかぁ……

ヨロヨロと更衣室に戻り鏡を見ると、顔は脂汗でテカテカ……
病院を出て、薬局にて処方された薬をその場で飲む。麻酔が本格的に切れる前に痛み止めを身体に入れた。

家に戻ると、子供の元気な声に気持ちが持ち上がってきた。我が家っていつも同じ空気で迎えてくれる、本当にありがたい場所だ。
「悪いトコ取ってきたっ。」と主人に報告した。
彼は子供の前では心配を顔に出さずに、うまく誘って子供とお風呂に入ってくれた。


ガーゼ交換。
まだお風呂もシャワーもダメです。

病理検査の結果が出た。
16ミリのシコリのうち、8ミリは悪性との事……
「乳がんです。」
「この位の大きさならば、まず98%転移などはありません。ただし、100%ではないので…」

……ドクターの話がうまく耳に入ってこない。何を言ってるんだ?この人は。「100%じゃない」が口癖なんだな。
あんなに痛くて熱かったのに、また手術の予定を組む事になった。乳癌の場合まず転移するのが、腕の付け根辺りにあるリンパだそうだ。検査次第で一部切除でもいいが、でもそれでは「100%じゃない」ときた。今度は2泊の入院になると云う。
そして術後1ヶ月半毎日放射線治療を受けるそうだ。
仕事の調整をしなくては!フリーになってすぐの大ピンチ……
でもでも、一体何と云ってお願いしたらよいのだろう?癌の治療の為だなんて云ったら、あっという間に噂は広まって仕事は無くなるだろう。心配はしてもらえるだろうが、どこかで一線を引かれてしまうのは目に見えていた。ええい、何か嘘にはならない理由を考えるのだ!

他に転移の可能性のある肺のレントゲンを撮り、骨を調べるため血液検査をして病院を出た。「転移」と云う言葉がとても恐ろしく感じる。
帰り道ボーとしながらも主人に電話。なんて残酷な電話…。でも一人の胸にしまっておくには辛い事実。聞いてもらえる人がいて良かった。

駅ビルの中で冷静にランチを食べつつ、考えても考えてもよく理解できない。まだ他人事のような感覚。相当ショックを受けた様で、実はそうでもない感じ。変だ。自分の輪郭が世界から切り取られて、クッキリしているのに、周りからは浮いている様な気分。当たり前だが、周りの人々は私が癌だなんて知る由もなく普通に通り過ぎて行く。とても違和感を感じた。腹立たしく思えた。
 
美味しそうなアップルタルトを買った。

家に近づくと、夫と子供が通りまで迎えに出ていた。
私を見つけると子供は満面の笑みで「ママ〜〜〜〜〜!」と走り寄って来る。
涙が溢れ出た。
 

このあと、手術予定日とぶつかっているレギュラー番組の調整を始めたのだけど、うまい理由が見つからない。でも日にちを空けなくちゃ。検診でちょっと引っかかって再検査入院と云うことにした。嘘ではないけど、この上なく心苦しい。フリーのつらい所。こんな時、間に事務所が入ってくれるとこれほど罪悪感を感じなくていいのかぁ…

数日間ゴチャゴチャと考えた末、やはり大なり小なり「がん」という病気だもの、専門の病院がいいと云う結論にたどり着いた。E病院では放射線治療はやっていないという事もあったし、それにあのドクターにまた手術してもらうのはちょっと遠慮したいと云うのが正直な気持ちだった。
知人やインターネットなどで色々な情報をかき集めた。情報があり過ぎて何を調べたいのか見失ってばかりの私。相談した元看護師の大親友にはショックを与えてしまった。彼女のお母様も乳がんで乳房切除の手術を受けたと云うからなおさらだ。日常ではやたらと「がん」と云う文字が新聞や雑誌などから目に飛び込んで来る。本当に多いのだと実感した。
仕事上でも家庭でも一番頼りにされる年代に一番多いと云う乳がん。検診啓発のポスターの文字が胸にズサリと突き刺さる。
「再発」したら私どうなっちゃうの?ふとした時に世を儚んでしまう。。


朝食抜きで、腹部エコー検査。
結果転移なし。これで肺、骨、肝臓は問題無し(今のとこ)。

そして紹介状を書いてもらうことにはなったが、ドクターは我が医院でも同等の手術が出来ることを強調していた。
がんセンターなどは、私のように軽いがん患者の場合2、3ヶ月待ちは当たり前だと云う。
おお?今年5月のアメリカでの仕事とブツかりそうだ。比較的早く予約が取れそうで、コバルト照射に毎日通えそうなT医大病院乳腺科にした。

帰りに紹介状と摘出したシコリの細胞検体を受け取り、帰宅した。
検体とは私のがん細胞な訳で、家に持ち込むのはちょっとイヤなもんだった。


知人に連れられ、水道橋にある病院の先生に会いに行った。なんでもその先生は、難解な症状の病気でも適切に診察し治療を施してくれるそうだ。   
お会いした印象は、とても感じの良い方。
自分の状況を伝え、どう治療していけばいいか聞いた。私が病気や手術の話をしている途中「ああ、良かったですね〜。」「大丈夫だと思います。」と云う発言があった。普通、乳がんが見つかった患者に安易に言うべき発言じゃないと思ったが、不思議とイヤに聞こえない。がんと戦う為に、放射線に対抗する為に、免疫力を高める食べ物などを教えてもらう。

まぁ、話を聞いてもらって少し気持ちも楽になったので行って良かった。
「未来のビジョンを持つ事」も免疫を高めると云う話が印象に残った。


子供が熱を出す。仕事の前に病院へ連れて行った。

わたしも、仕事中から気分が悪くなる。フラフラでスタジオを出て薬局に飛び込み、速攻で効く風邪薬と栄養剤を買った。
ランチをそこそこ胃に入れ、薬とドリンク剤を流し込む。
ダメだ、座っているのも辛い!横になりたい。貧血で手がしびれてきた。
店員さんにお願いして奥の席に移り、突っ伏して休ませてもらった。
徐々に薬が効いてきたのか、身体が温かくなり気分も良くなってきた。
いったい何だったんだ?この急激な体調悪化は?しっかり私!負けちゃぁいらんないわよ!次のスタジオへゴー!

家に帰ると、子供はまだお熱、相方もお熱、まさに一家地獄。お母さんは寝ていられません!。


E病院へマンモグラフィのフィルムを受け取りに行った。

確かマンモには何にも写っていなかったんだよなぁ。一般の乳がん検診は触診とマンモグラフィのみだ。私が受診した去年の区民検診でもそうだった。
だが今回のがんはエコーでのみ写る性質のものだとドクターは言っていた。逆にマンモには写るがエコーには写らないタイプもあるらしい。
ともかく、触診、マンモ、エコーの3点セットで乳がん検診はするべきだ。


今日は紹介してもらった大学病院受診の日。
初診は十時半受付で、診察室に呼ばれたのは十三時過ぎ…。
どんな教授先生なのかと緊張しつつ明るく「こんにちは!」と入室すれど、椅子に座った先生はチラッと私を一瞥しウンザリした雰囲気…。
アラ?挨拶なしなの教授先生?机上にはE病院からの紹介状と検体プレパラートが数枚。これが私の「がん」なのかァ?

ザッと今までの経緯をお話するも、何故かウンザリ顔の教授。あるファイルを開いて
「あなたの場合は、これ。ステージ0のここね。何も治療しなくていいの。98%以上は再発しないんです。残り2%なんて交通事故に遭ったり他の病気になったりするでしょ?そういった患者さん全員にがんの治療をする訳にはいかないでしょ?」
…なんだか…なんだかとってもイヤな感じ!
そんな言い方は無いんじゃないかなぁ!
ステージ0と云われた100人はきっと、その2%にならないよう最善の治療を希望する!
初診の患者に対して別のアプローチはないのか!もしかしてハズレか、この病院?

おもむろにマンモグラフィを見たりプレパラートを光に透かして見ながら
「どこにがんがあるのか、見えないんだよね〜。がんだと紫色になっているんだけど〜。分からない。E病院の先生には悪いけど、もしかしたらがんじゃないかもしれないよ〜。」
ええ〜〜っ!?がんじゃないかもですって〜〜〜〜〜っ!?と、あんぐりしている私に、
「なんで最初っからココに来なかったのぉ!」
お?それがウンザリ顔の元ですな。愕然として言葉の出ない私をよそに、ペラペラと紹介状をめくり、
「あ。この検査結果はがんなのかぁ〜。」
うう〜っ!どっちなんだ?私にとっちゃ命の、人生のかかった一大事なんだぞっ!

「シコリを検査するのに穿刺だと100%良性だと云う結論は出せないと言われて。胸に傷がつくけど全摘してスライスして調べれば確実な結果が出せると言われまして…。」
なんだか言い訳がましい事を言い出す私。でもNドクターは確かにそう言った。針で取れる組織は一部分なので、悪性部分から外れてしまうと小さながんを見過ごしてしまうと…。その時私は「なるほど。」と納得した。
命に関わる事だもの、1%の不安でも取り除いてしまいたいと思うでしょ。そしてすぐ翌週手術の予定となり、あの辛い手術を受けたのだ。

そんな話を教授先生に伝えると、フッと一笑された。
ちょっと頭に来た私は
「じゃぁ、どうしたらイイですか私は!そのままE病院に通院していたら、翌週にはリンパ節を摘出する手術をされ、コバルトを一ヶ月半毎日受ける段取りになっていました。要所要所で担当先生に不安を感じたので先生を頼りにここに来たんですけど!」
と、ストレートに気持ちを伝える。
「…じゃぁ、傷見せて。」
やっと腰を上げてくれたようだ。

上半身脱いでベッドに横になる。エコーで手術した患部をグリグリするので「いたたたっ」と声が出る。
脇の下もグリグリするので「うぐぐぐぐ」と笑いをこらえた。
「脇のボンヤリしたものってのも、分からないんだよね〜。」
とぼやく教授。

診察されながら以前新聞で読んだ記事を思い出した。乳がんだと診断され、切除した組織を調べた病理結果は、実はがんではない事も多々あると云う。
私は、胸に4センチ近い傷がついてしまったけれど、がんじゃなければそれで良かったと思うべきか、無駄な傷を付けられたことで怒るべきか…ま、それはまだ考える時ではないか。

せっかくなので、E病院でもエコーに写っていた左胸のシコリも調べておこうと云う事で、穿刺することに。
頭上の大きなメカにスイッチが入れられ、そこから延びたコードの先に10センチ程もある針が付けられた。
こんなに長いものを刺すのかっ?
教授はエコーモニターを見ながら、
「はい、ごめんなさいね〜。」
と刺した。
…ん?思ったよりも痛みは無いぞ。
白黒のモニターに写る黒丸に針が近づいて行くのが分かる。ブニっと刺さり数回グサグサと動かしている。

この左胸の結果は来週。そして問題の右シコリの検体は、他のドクターと議論するようだ。
ともかく全て来週まで待て、なのだ。

もしかしたら癌じゃないかもしれない…?
なんだか妙な気分だ。いやいや、ぬか喜びになるかもしれないし、安心しちゃいけない。


Brest Oncorogy (乳腺科)
受付に置いてある冊子を手に取った。乳がんの健康セミナーの記事があった。山田邦子さんと数名のコメント、そして教授先生もパネリストで参加していた。
がん患者サービスステーションのパンフレットもある。
乳房切除した方専用のブラジャー、抗がん剤による副作用で悩む方のカツラや、精神安定の為のアロマテラピー等々…今もがんと戦っている方とその家族が沢山いると云う現実を、思いっきり身近に感じた。
胸が苦しい…。

今までの人生で全く知らなかった世界がそこにあった…。


期待と不安の一週間が過ぎた。さぁ、どっちだ?

診察室に入ると、教授は機嫌良さそうに座っている。
「どうでしたか?検査結果は?」と聞くと、
「んん?どっちだと思う〜?(ニヤリ)」
……(汗)なんだその軽い返しはっ!(と心の中でツッコんで)
「ど、どっちって…どっっっちですかっ?」
カチカチとPCで検査結果の書類を開きつつ、
「がんじゃありません。良かったね。」
と、相変わらず大雑把な説明だ。
だんだんとこの教授先生のテンポになれてきたのか、ムカッとは来なくなった私。
「で、左ですか?右ですか?」
「ええ?あぁそうか。これは…先週の左の穿刺した方ね。」

問題の右腫瘤(みぎしゅりゅう)の正体はまだ病理結果が出てないと云う。
病理検査は終わってるが、ちゃんと書類になっていないとの事。なんて時間がかかるのでしょう大病院て…

「もう出て来ると思うので、30分位昼食でも取ってきて。時間はある?今日解った方がいいでしょ。
でもね、がんじゃないと思うよ〜。僕はがんセンターの病理にいたからだいたい解るんだけどね。」
 “思う”では困る。決定的な何か安心出来るものが欲しい。
「では、どうしてE医院はがんだと判断したんですか?」
と疑問を投げかけた。
白か黒か病院によって違うなんて信じられないことだ。
「ん?無能だからですよ、病理が。外科の先生はその結果を伝えただけだから、その先生の事は恨まないでね。」
おお、同業を守る発言。ちょっと見直した。

仕方ないので昼食をとりに一度病院を出た。
ものすごく宙ぶらりんな気持ちでナシゴレンを食べた。
癌じゃないかも……張りつめていた気持ちが緩んできて思わず涙が溢れてきた。
だめだめ!まだ大丈夫だと決まったわけではない。安心するのは早い。レモングラスが目にしみただけだ……

再び診察室へ戻ったが、まだ病理結果が出て来ないとの事。
「でもね〜、がんじゃないと思うよ僕は。もうね、放置です、放置。治療は無しです。良かったね〜。でも逆にがんじゃないと云われていたのに、ここに来たらがんだと判った人もいるのよ…。色々子供のこととか考えちゃったでしょ?」
「あぁ、勿論…それに何より、親より先に逝けないなぁとか考えました。実は未だ今回のこと両親には伝えられなくて…」
と、また涙腺が緩んで来たわたし。
すると教授は
「E病院の先生に文句でも云ったら?一ヶ月間精神的に苦痛を受けましたって。
あ、いやいや、焚き付けちゃいかんな(笑)」

…ちょっとこの人、面白がってるでしょ?もしかして?
さっきは同業をかばっていたと思ったのに…見直した私が甘かった。

病理結果は来週ということになり、その結果が良性だったとしてももう一件別の機関でコンサルをお願いしたいと申し出た。教授から名前が挙がったのは病理専門のS乳腺外科。
そこは教授の師がいて、乳腺科の世界では最高裁と云った所だそうだ。
コンサルなんて、グレイズアナトミーの台詞以外で初めて使った…


今日こそ出ている事でしょう。
診察室の扉を開けると、教授が眉間にしわを寄せ難しい顔でこちらを見ている……
もしかして、やっぱり悪性?!恐ろしい思いが頭をよぎった。
教授は無言で瞬きもせず私を見つめたままだ。
そして…
「三石さん……………、何だっけ?」
ズコッ!!
思わずコケるリアクションをとってしまった。もうっ、ビックリしたじゃないか(涙)!
まさに寿命が縮んだぞっおっちゃん!
患者に「何だっけ?」なんて聞いちゃう先生は“おっちゃん”でいいっ!

「あーでこーで先週先生がこう仰って、私はこーであーでっ!!」
汗する私。
「ああ〜、そうだ。」
悪びれる風でもなく、PCをカチカチするおっちゃん教授。
大学病院の教授ともなると私のような凡人とは別世界の住人なんだ。
毎日毎日生死に関わる仕事をしているから、事の重大さの度合いが違うのだ。
それともこの人は天然なのだろうか?

プリントアウトされた病理結果は、教授の予想通り「白」だった。

…やっと、ホット息をつくことができた。家族の笑顔が頭に浮かぶ。。。。

それから検体をS乳腺外科へ送り、最高裁の審判を待つ事に。
他病院からの検体の場合の費用は5万円。

一週間後出てきた結果は、こちらも「白」だった…。




『安心をもらいに…』
 
一千万円…だそうです。“がん”と誤診され、乳房ごと切除されてしまったときの慰謝料。

乳がん検診で万が一シコリが見つかったら、細胞を調べるためとはいえ絶対に私のようにすぐ摘出手術などせずに(普通はすぐ切らないらしい)、ただの外科ではなくがん専門病院か乳腺科のある病院で診てもらうべき。

同じ細胞なのに病理医によって“がん”だったり“がん”じゃなかったり、こんなことが実際に起こっているのです。

私にがん告知をしたE病院に一連の検査結果を持って行った時、院長、理事、外科部長が応対してくれましたが、
「ウチの病院ではやはりがんの疑いは拭いきれない。」
「病理医も人間ですから。」
…人間だから間違いもあり許してほしいという意味なのか?

でもそのままE病院に通っていたら右脇のリンパ節を全摘され将来右腕が上がらなくなっていたかもしれません。1ヶ月半もコバルト照射を受け、健康な細胞に負担をかけたかもしれません。そして再発に怯える日々…
家族にも大変な心労を与えたでしょう。
勿論がんだった場合は必要な治療で、今も治療なさっている方がいるのは現実のこと。あの待合室で顔を合わせた誰かは、病気と戦っているのかもしれないと思うと胸が苦しくなります。

胸の4センチの傷あとは何を言わんとしているのか…。


ただ、私の中でもの凄い意識変化があったことは確かです。
『今日を悔いなく生きよう。生きているうち、身体が自由に動けるうちに、やりたいことは遠慮しないでやろう。たくさん笑おう。たくさん愛そう。 』
こんな思いが細胞ひとつひとつにまでジワリとしみ込んだのです。
明日が普通に訪れる保証はどこにも無いという言葉がふと頭に浮かび、
そして初めて、頭ではなく身体が理解したような感覚。命がある事への感謝の気持ち…。

早期発見の為に乳癌検診は必須。そして子宮ガンなどの婦人科検診も同様に重要です。
実は私、二十四才の時「穿孔性卵巣膿腫(せんこうせいらんそうのうしゅ)」で緊急手術を受けて、周りの人に迷惑をかけ、辛い思いをしました。
その時も凄く色々考えさせられたけど、今回のように「死」と云う所までは意識が行きませんでした。あの時は、ただ仕事に復帰できた喜びと周囲への感謝の気持ち。でも今は、急に私がこの世からいなくなってしまうかもしれない、寿命って神様しか分からないんだなぁと云う思いが残っています。


結局私の身体はどうなのかと云うと、グレーが一件、白が二件。つまり「一般の人と同じ」状態です。
半年や一年ごとに検診を受けて、悪い所がないか自己管理です。

にしても、偉そうな事言ってるわりに私自身喉元すぎて熱さを忘れないようにしないといけません。

 安心をもらいに検診に行きましょう。勇気をもって。
 愛する家族を安心させるのも、一つの愛情表現ですよね。