病理検査の結果が出た。
16ミリのシコリのうち、8ミリは悪性との事……
「乳がんです。」
「この位の大きさならば、まず98%転移などはありません。ただし、100%ではないので…」

……ドクターの話がうまく耳に入ってこない。何を言ってるんだ?この人は。「100%じゃない」が口癖なんだな。
あんなに痛くて熱かったのに、また手術の予定を組む事になった。乳癌の場合まず転移するのが、腕の付け根辺りにあるリンパだそうだ。検査次第で一部切除でもいいが、でもそれでは「100%じゃない」ときた。今度は2泊の入院になると云う。
そして術後1ヶ月半毎日放射線治療を受けるそうだ。
仕事の調整をしなくては!フリーになってすぐの大ピンチ……
でもでも、一体何と云ってお願いしたらよいのだろう?癌の治療の為だなんて云ったら、あっという間に噂は広まって仕事は無くなるだろう。心配はしてもらえるだろうが、どこかで一線を引かれてしまうのは目に見えていた。ええい、何か嘘にはならない理由を考えるのだ!

他に転移の可能性のある肺のレントゲンを撮り、骨を調べるため血液検査をして病院を出た。「転移」と云う言葉がとても恐ろしく感じる。
帰り道ボーとしながらも主人に電話。なんて残酷な電話…。でも一人の胸にしまっておくには辛い事実。聞いてもらえる人がいて良かった。

駅ビルの中で冷静にランチを食べつつ、考えても考えてもよく理解できない。まだ他人事のような感覚。相当ショックを受けた様で、実はそうでもない感じ。変だ。自分の輪郭が世界から切り取られて、クッキリしているのに、周りからは浮いている様な気分。当たり前だが、周りの人々は私が癌だなんて知る由もなく普通に通り過ぎて行く。とても違和感を感じた。腹立たしく思えた。
 
美味しそうなアップルタルトを買った。

家に近づくと、夫と子供が通りまで迎えに出ていた。
私を見つけると子供は満面の笑みで「ママ〜〜〜〜〜!」と走り寄って来る。
涙が溢れ出た。
 

このあと、手術予定日とぶつかっているレギュラー番組の調整を始めたのだけど、うまい理由が見つからない。でも日にちを空けなくちゃ。検診でちょっと引っかかって再検査入院と云うことにした。嘘ではないけど、この上なく心苦しい。フリーのつらい所。こんな時、間に事務所が入ってくれるとこれほど罪悪感を感じなくていいのかぁ…

数日間ゴチャゴチャと考えた末、やはり大なり小なり「がん」という病気だもの、専門の病院がいいと云う結論にたどり着いた。E病院では放射線治療はやっていないという事もあったし、それにあのドクターにまた手術してもらうのはちょっと遠慮したいと云うのが正直な気持ちだった。
知人やインターネットなどで色々な情報をかき集めた。情報があり過ぎて何を調べたいのか見失ってばかりの私。相談した元看護師の大親友にはショックを与えてしまった。彼女のお母様も乳がんで乳房切除の手術を受けたと云うからなおさらだ。日常ではやたらと「がん」と云う文字が新聞や雑誌などから目に飛び込んで来る。本当に多いのだと実感した。
仕事上でも家庭でも一番頼りにされる年代に一番多いと云う乳がん。検診啓発のポスターの文字が胸にズサリと突き刺さる。
「再発」したら私どうなっちゃうの?ふとした時に世を儚んでしまう。。